ポルトガルの無形文化遺産 哀愁漂うファドの秘話

今日はポルトガルのファドについて、ご紹介します。
ファドは、昨年、ユネスコの無形文化遺産になり、ポルトガルの暗い経済状況の中、明るいニュースとして話題となったポルトガル伝統の民族音楽です。

ファドとはファド歌手一人とポルトガルギター、ビオラ(通常のクラシックギター)の伴奏で、薄暗いライト照明の元で演奏されます。
世界でも有名なファド歌手として、アマリア・ロドリゲスがいます。 日本でも知られる「暗いはしけ」も、かつて彼女が出演したフランス映画「過去を持つ愛情」の中で歌ったのが広く広まったもので、ファドがその名を世界に知 られるようになったのは、アマリアによるところが大きいのです。
アマリアは1999年に79歳で亡くなりましたが、この時ポルトガルは三日間の喪に服しました。 彼女の葬儀にはファンのみならず当時の大統領も列席し国葬並みの扱いで、国民の誉として、エンリケ航海王子、バスコ・ダ・ガマや文豪カモインスなどの記念 碑があり、ポルトガル歴代の英雄たちが埋葬されるリスボンの国立パンテオンに眠っています。

ところで、ポルトガルには二種類のファドが存在するのを知っていますか?
通常、有名なファドは、哀愁漂う首都リスボンのファド。
その歴史は19世紀初期にさかのぼります。当時、ファドはリスボンの波止場や色々な人種が住みつく、あまり柄のよくない地域の大衆食堂などで、浮世 の憂さ晴らしとして歌われていました。 その中にマリア・セヴェラというジプシーの人気歌手がいて、彼女は美しい高級娼婦でもあり、愛人も数人いました。
そのセヴェラに裕福な貴族、ヴィミオソ伯爵が恋をしましたが、彼女は26歳の若さで結核のために亡くなります。
その後、ヴィミオソ伯爵がファドを貴族のサロンへと持ち込み、ファドは人々に知れ渡り、王室のサロンですら歌われるようになり、郷愁や愛をテーマにした詩的な歌詞で憂い思ったメロディーで作られるようになったそうです。

そして、もうひとつのファドとは、ちょうどリスボンとポルトの中間にある都市コインブラにあるコインブラ大学の学生による学生ファドです。
写真のファドがコインブラのものです。このファドはコインブラでしか聞くことができません。
コインブラ大学は13世紀に創立された、ポルトガルのオックスフォードと言われる名門大学です。
5月に2週間催される学生祭は、黒マントを身にまとった学生のその独特な趣からして毎年ニュースになります。 そして、このときに聞くことができるのが「学生ファド」です。

コインブラのファドは男子学生によってのみ歌われます。
(リスボンのファドは男性歌手も女性歌手もいます。)
伴奏はリスボンファドと同じく、ビオラとポルトガルギターとで演奏され、歌い手の男子学生は中世の吟遊詩人のごとく、黒いマントを身にまとって歌います。
コインブラの学生ファドはリスボンのファドとは異なり、陽気な恋の歌が多いのが特徴です。

ファドの学生がまとう黒いマント、ポルトガル語ではcapa=カパと呼び、 実は日本の時代劇に出てくる渡世人さんがまとった「かっぱ」は、これが語源なのだそうです。
みなさん、リスボンのファド、コインブラの学生ファド、両方聞いてみたくありませんか?
コインブラの学生ファドは常時聴ける場所が限られますが、コインブラ市内のカルチャーセンターにて、毎日18:00から聴くことができます。
リスボンは、お食事をしながら聞くことができるファドレストランがいくつかありますが、最近はリスボンでもファドレストランが少なくなってきているそうで、その分予約が集中してしまい、団体のお客様などと重なってしまうと、満席で入れないこともあるようです。
絶対にお聞きになりたい方は、是非、予約をして出かけましょう!