南アフリア、ヨハネスブルグを舞台にしたSF映画『第9地区』

南アフリア、ヨハネスブルグを舞台にしたSF映画『第9地区』

『アフリカ』を題材にした良質な映画は数多くあるのですが、とかくハリウッド視点で作られるものはシリアスな傾向があります。
題材として過去の人種間の歴史をなぞるものや、内戦・紛争もの、政治と闘争など、観る方にもそれなりの心構えと体力を要することが多いです。
それがゆえに、重厚なつくりの作品が多く、映画を通してアフリカの歴史、そして現状を学ぶことの出来る機会も多く得られる事と思います。

ですが、今回は敢えてちょっと毛色の違う作品を1つ。
今回お勧めするのは、2009年のSF映画『第9地区』です。

舞台は南アフリカのヨハネスブルグ。ある日、突如として、正体不明の円盤型宇宙船が姿を見せ、その宇宙船には大量のエイリアンが乗っていました。
彼らは地上に住むことになり、エイリアンの為の居住区『第9地区』を形成する。その後、20年近くが経過し、エイリアンと共存する南アフリカの人達は…。
一言で言ってしまえば、若干ナンセンスでド派手なB級SFエイリアン映画なのですが、ところどころが非常に示唆的な映画です。
ヨハネスブルグ市内におけるエイリアンの強制移住計画、エイリアン居住区のスラム化など、実際に人間社会で生じている社会問題を想起させる要素が目くばせのように効いています。
『第9地区』のロケが行われたのはヨハネスブルグの『ソウェト地区』。かつて南アフリカがアパルトヘイト政策によって人種隔離政策がを行い、分断されていたアフリカ系住民の人々が居住していた象徴的な場所です。この映画の監督も南アフリカのヨハネスブルグ出身。その監督のインタビューでも、映画のストーリーはアパルトヘイト時代に起きたケープタウン第6地区からのアフリカ系住民の強制移住政策を下敷きに、近年の南アフリカ周辺国から避難してきた移住難民と南アフリカネイティブとの確執問題などを参考にしたと語られています。
ですが、映画そのものは馬鹿馬鹿しさすら感じるSF娯楽アクション。前述した『第9地区』を舞台に幾分コミカルなタッチで物語は進んでいくのですが、さらっと人間がエイリアンを強制移住させ、また迫害して差別するような描写もあり、随所に笑えない毒のあるジョークがちりばめられています。私のツボは、ナイジェリア人たちのギャング団のボスの名前がナイジェリアの前大統領と同姓同名だったところでしょうか。『シニカル』という言葉が非常にぴったりくる、底意地の悪い、不謹慎な映画でもあります。
これをヨハネスブルグ出身の監督がやってしまうところにニヤリとさせられます。決して万人にお勧めできる内容のものではないかもしれませんが、たまにはこんな風に楽しんでしまうのもアリではないか、と思わせる逸品です。

※写真はヨハネスブルグの郊外、実際の『ソウェト地区』の写真です。

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